『ギックリ』
朝、ネクタイを締めて、…
朝、ネクタイを締め…、
朝、ネク……、タイを…
朝、……… ネクタイを締め…、
ネクタイを………、ネク…あれっ、
一日に、通勤の行き帰りと、仕事場用のものと、三回は同じようにネクタイを締めている。
『セミウィンザーノット』
それなのに、その時はなぜか、五、六回、いや、それ以上に何度やってもネクタイを締められなかった。
クールビズでノーネクタイの期間ができたとはいえ、仕事場ではしているので、15年くらいは毎日のようにネクタイを締めている。
なので、手の動き、運びをそんなに意識しなくなっている。
冷静に、理論的に考えようとしても、できなかった。
忘れていた。ということか。
そして僕は笑った。
今から10年前くらいだろうか、
歳末、クリスマスを前に、店舗の宝石屋は掻き入れ時を迎える。
僕も例にもれず、二週間程休みなしで働いていた。(当時、宝石店店員)
クリスマスを終え、確か12月26日だったと思う。
一日十時間の立ち仕事、ちょっと腰がだるかったのを覚えている。
そして、つい、マッサージをしてもらった。
(これが、良くなかった。)
その瞬間は覚えていない。
しかし、
『あれっ、… 』
『動けない。』
動こうとすると、『痛い』。『痛い』から『動けない』のだが、『痛い』ことよりも、あまりにも『動けない』ことに驚いたくらいだ。
もともと、その年の三、四年前に初めての『ぎっくり腰』を経験していた。
なので、再発ということになる。
まったくこの時も笑ったのだ。
笑うしかなかったのだ。身動き一つせず笑った。(『できず』だけどね)
時間を掛けて身体を横にして、腰と膝を『く』の字にして、
そのまま畳の上で、掛け布団だけ掛けて寝た。
そんな思い出があった。
だから今日のネクタイのことは、脳が『ギックリ』して、記憶も身体の習慣もいつも通り動かなくなったのだろう。
こんな時、人は笑うしかなくなるのかもしれない。
ただ、こうしたことが頻繁に起こるようになるとちょっと笑えなくなる。
(了)
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