『 携帯電話 』
連休で家に遊びにきていた大学の先輩が、夕方になって帰っていった。
彼は朝からビールで迎え酒をして、昼過ぎには僕も昨日の残りのワインを少し舐めはじめた。
話しは、昨日の夕方から、寝ている間を除いて、丸一日続いた。
午後六時、テレビを点けて、ニュース番組を見て、暫くの沈黙が続いたところで、突然
『帰るわっ。』
と言って立ち上がり先輩は玄関を出た。
僕は最寄り駅まで、送っていった。
僕が家に戻ると、家人が家の前で待っていた。
彼が、ローテーブルの上に、携帯電話を忘れて置いていったのだ。
ついそこまで送るだけだったので、僕も携帯電話を持っていかなかった。
僕らは家を出て、私鉄の駅に向おうとしたのを、途中で、都営線の駅へ方向転換した。それが不味かった。
家人は私鉄の駅の方まで追いかけてくれたらしいが、僕らはそちらからぐるりと回って、都営線の駅に向った為、結果、追っ手(家人)をまいてしまったのだ。
家で、先輩が戻ってくるのを暫く待機したが、戻ってくる様子がない。
彼が僕の携帯電話や、家の固定電話の番号を覚えているわけがなかった。
前の日に僕からの電話が掛からなかった事で、彼は僕の番号を再確認したのだけどなぁ。
最寄り駅に到着したら貰えるはずだった、彼から電話は掛かってこなかった。
それは、彼が僕の携帯電話の番号を下二桁で入れ違いに登録していたからだ。
彼は二度三度、その間違った番号に掛けていたのだそうだ。
その話しにも続きがあり、翌朝、迎え酒をやっていると、僕が掛けていないのに、僕の目の前で僕の名前で彼の携帯電話に、電話が掛かってきたのだ。
もちろんである。
その僕の名前が登録してある番号は、前日に間違って掛け続けた番号の主のものだからだ。
最初、彼はその電話の着信音に
『怖いぃ』と言って、出ようとしなかった。
『それはないでしょう、向こうの方が怖がってるよ』
と諭し、三度目くらいで彼は出ることにした。
そして、前日に掛けたのが間違いだった旨を伝え、謝って電話を切った。
そんなやり取りがあったのだ。
しかし、お酒もしこたま飲んで、話しもいっぱいしているので、僕の携帯の番号なんて覚えている訳がなかった。
彼の固定電話にかけても、『現在使われておりません』だし、もちろん彼の携帯電話は目の前にあるし、
その後、僕は彼のPCのメールアドレスに、『どうしましょう?』と送った。
彼からは、PCから僕の携帯に連絡が入っていた。
結局、僕は仕事場に彼の携帯電話を持ち歩き、時間と場所を決めて待ち合わせる事にした。
午後五時前、秋葉原の電気屋さんの前で、彼の携帯電話を渡すと、彼に言われた。
『あの日、途中の駅で気付いて、引き返して、玄関のチャイムを何度か鳴らしたんだけどね』
『えっ!…』
僕は三階の部屋にいて、チャイムの鳴る音にまったく気付かなかったということだ。
(普段なら、愛犬が吠えてくれるんだけどなぁ)
まったくかたじけない。
携帯電話は、携帯しないと駄目ってことね。
(了)
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