『たけのこ』
僕は筍が好きだ。
あのシャキシャキした歯触り、歯ごたえの食感が好きだ。
ほのかな風味も好きかもしれないし、煮た後の味もやっぱり好きだ。
味が染みている。
近頃では、新鮮なヤツをただスライスするだけの『刺身』なんてのもあるらしいが、それは知らない。
筑前煮や竹の子ご飯やメンマがほとんどだ。
小学生の頃、『たけのこ狩り』へ行って、泥だらけになって帰ってきた。
その足で、大きなスーパーに立ち寄り、値段を調べたりした。
化粧品売り場の奇麗なお姉さんが、僕ら仲間とその山ほどもあった『たけのこ』を珍しがってか、話しかけてきた。
僕らは喜んでいくつかの『たけのこ』を分けてあげてきた。
もちろんお姉さん達も喜んでくれた、薄いパープルカラーの想い出である。
学生の頃、八〇歳を過ぎたお婆ちゃんが、はるばる北海道からやってくることになった。
迎えに行った父母の留守、僕は歓迎の宴を用意しようと頭をひねり、スーパーへ向かった。
僕は『皮付きのたけのこ』と『タコ』と『キュウリ』を買った。
米のとぎ汁でたけのこを湯がいて灰汁を除いたり、かつ(お)節で『一番だし』をとったりして、
『たけのこ御飯』と『タコとキュウリの酢の物』を食卓に並べた。
我ながらかなり上出来であった。
お婆ちゃんは、満面の笑みを浮かべ、眼を細めてくれた。
『みのるちゃん(本当は実名)ありがとうネ』
と礼を言われた後、
『でも、お婆ちゃん、御飯だけいただくネ』
と言われた。
『えっ?』と僕がいぶかしがる前に、お婆ちゃんは、ほとんど歯の無い口をまあるく開けて、
『ホッ、ホッ、ホッ、ホッ』と笑い出した。
口の回りの皺と、ニコニコして一段と細くなった瞳がとても印象的だった。
『たけのこ御飯』と言えば必ず想い出すはなしだ。
(了)


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