商売

2013年12月 6日 (金)

『 販売員に告ぐ 』  -2-

彼は空気清浄機をお買い求めのお客様で、『ご年配の方』や「『電源を差すだけでイイんだよね』、と訊いてくる方」には、先のお客様の一件以来、フィルターの封を切るように話しているのだそうだ。
しかし、大半の人にそこの説明はしていないらしい。

それはない、と思ってしまっているからだ。
では、何故『その友人』なら有り得ると思ったか、…。

実はその友人は、今年の夏に扇風機がわりにサーキュレーターを買っていってくれたそうだ。
そしてその日の晩に電話があった。

『なんかあんまり涼しくないんだけど、』
『音はとっても静かなんだけどね。』

電話というのはとても便利だが、映像がないと相手の状況を想像するのがなかなか難しい。
サーキュレーターだから、扇風機とは若干違う風の吹き方をする。
だからだろうか?
自問自答したそうだ。

自分のご案内した家電製品のことだけに、何とかしなくてはという焦りの気持ちも起こり始めていたらしい。

すると電話の向こうで誰かなにかを叫んでいた。
(おそらく息子さんだ。)

『えっ!?』
『イヤダァ!!』
『ふっ、ふっ、ふ(笑)。』
その友人は一人で笑い始めたのだそうだ。
そして、

『羽根が付いてないんだってぇ!!』

まさかの発言である。
友人が買っていったのは、流行りの『羽根のない扇風機』ではない。
昔からある、3枚とか4枚とかの羽根がクルクルと回るタイプの普通のものだ。
扇風機の軸が空しく回転している様子を想像して苦笑したそうだ。

何故、羽根を付けずに暫くの間過ごしていたのだろうかと不思議に思ったが、当人からしたら、何故電源を入れたのに涼しくないんだろうと不思議に思ったはずである。

全ては思い込みの成せる技なのだ。

販売員に告ぐ、お客様と対面したら先ず、お客様のフィルターの封を切るところから始めよう。



                (了)

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2013年11月26日 (火)

『 販売員に告ぐ 』  -1-

これはとある家電販売員から聞いた話である。


かれこれ十四、五年もの間、家電製品の販売に携わる仕事をしてきた彼が言っていた。
『ご案内の難しさや大事さというものは、お客様(ユーザー)から学ぶことが多い。』と。


何年か前に『空気清浄機が壊れた!』『一年しか使っていないのに!』
と血相を変えて店にやってきた方がいたそうだ。

話を聞いて対応すると、お客様は落ち着きを取り戻した。

製品を確認するために、彼は『埃をキャッチする為のフィルターが収納されているパネル』を外してみたそうだ。

彼は自分の目を疑った。

そこには封を切らずにビニール袋に包まれたままの新品のフィルターが収まっていたのだという。


これでは壊れてしまうのも無理はないか。

お客様にやんわりとその旨を伝えると、
『だって買うときにそんなこと言われなかったぜぃ!!』と照れ隠しにか、開き直りか、また少し興奮の度合いが増したのだそうだ。
60代の男性だった。

自分が案内、販売したお客様ではなかったらしいが、
『そうですよねぇ』『もっと丁寧なご案内できるよう心がけます。』となだめ、修理をお薦めしたところ、結局新しい空気清浄機をお買い求めいただいたのだそうだ。


こうしたお客様に出会ったのは、10年間でこの一組だけだという。

実はつい最近、その可能性(フィルターを付けたままで空気清浄機を運転させること)がある友人が空気清浄機を買ってくれたらしい。
彼は外で食事をとっていた最中だったが、思いついたその場で直ぐに当人に連絡をとったのだそうだ。
40代の女性なのだが、なかなかの天然素材の持ち主だそうな。

購入後数日経っていたが、配送、到着の翌日だった。
なんとその友人の空気清浄機も、案の定フィルターの封は切られていなかったというのだ。

友人も彼も大笑いしたが、『気付いてくれて、ありがとう。』と言われたそうだ。




               (つづく)

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2009年6月 3日 (水)

『オオトロセンエン』

『ハイ、そこのお兄さん、オオトロセンエン、オオトロセンエンでイイよ』

昔からよく聞く魚屋さんの呼び声。
しゃがれて、エラを響かせているかのような発声、しかも低い。

場所は御徒町。『アメ横商店街』

年末ともなると、必ずといっていい程、テレビ中継が入る街。
なぜなら、お正月の仕度に必要な、おもに海鮮品の安売りで有名な街だからだ。

他にも『輸入菓子』『化粧品』『革製品』『宝石』などは昭和の昔から、結構『安い』店が多い事で有名な街だった。

(以前にもこの街についてはちょこっと書いている。http://minoru-iroiro2.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_6f7e.html

若い頃に洋服や靴、ライターなどを捜しによく行った。
その頃から、この海鮮品を売る通りはよく通っていたけど、自分で買って帰るなんて事はなかった。


『…オオトロセンエン、オオトロセンエン…』

この呪文のような呼び声に誘われて、半野天の店の前に立ち止る。
見ると、幅10センチ、長さ40センチはあろうかという腹のカタチをした『大トロ』の柵の切り身、それがなんと二枚。

うっすら赤みがさしている程度の色み。
どうせ、『ビン長』じゃないのぉ、ぐらいに思っていた。
それでも、元の正札は『3000円』とあった。

『もう最後だから、1,000円。そしたらコレ付けるよ。コレ。』
『タラバ、片足、7,000円の、コレ付けて、2,000円。』

カニはハズレがあるから、いらないやと思っていても、

『じゃぁ、毛蟹、それともズワイ、』
『カニはイイや』と僕。

すると脇から別のおじさんがやってきて、

『うなぎは?うなぎ。富士吉田、富士吉田産。コレ付けて2,000円。』

身の厚い、結構大きめのものだ。それが、二枚。
近頃、安いのは中国産ばかりなので、うなぎから遠ざかっていた。
心はうなぎを欲しがっている。

こちらが、にやけていると、先方に拍車がかかった。
もはや、敵の術中に嵌まったということだ。

『あと、明太子も付けよう、いや? じゃぁタラコ。』
『いいよ。コレも1,000円で、…』

これまた、ぶっといのが五はらか、六はらも入っている。
タラコが高いことぐらいは知っている。
ということは、これはものすごく安いということだ。

『全部で、3,000円でイイよ。もうマグロがタダってことじゃん。買ってってっ。』


『うなぎ』の正札は、2,000円。
『たらこ』の正札が、2,500円。
『大トロ』が3,000円だったから、しめて7,500円。
それが、なっなんと、なんと、3,000円なのだ。

「本当なのか、なんでなんだ」という想いが頭をよぎる。

まったく、あれよ、あれよという間に袋につめられた海鮮品。
『狐につままれたよう』とはこういうことを言うのか。


そのかなり重い袋を下げて家路につくのに、一番心配だったのは、果たしてこれらの『お買い得品』が我が家の冷蔵庫に納まるのかということだった。

               

               (了)

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