『オオトロセンエン』
『ハイ、そこのお兄さん、オオトロセンエン、オオトロセンエンでイイよ』
昔からよく聞く魚屋さんの呼び声。
しゃがれて、エラを響かせているかのような発声、しかも低い。
場所は御徒町。『アメ横商店街』
年末ともなると、必ずといっていい程、テレビ中継が入る街。
なぜなら、お正月の仕度に必要な、おもに海鮮品の安売りで有名な街だからだ。
他にも『輸入菓子』『化粧品』『革製品』『宝石』などは昭和の昔から、結構『安い』店が多い事で有名な街だった。
(以前にもこの街についてはちょこっと書いている。http://minoru-iroiro2.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_6f7e.html)
若い頃に洋服や靴、ライターなどを捜しによく行った。
その頃から、この海鮮品を売る通りはよく通っていたけど、自分で買って帰るなんて事はなかった。
『…オオトロセンエン、オオトロセンエン…』
この呪文のような呼び声に誘われて、半野天の店の前に立ち止る。
見ると、幅10センチ、長さ40センチはあろうかという腹のカタチをした『大トロ』の柵の切り身、それがなんと二枚。
うっすら赤みがさしている程度の色み。
どうせ、『ビン長』じゃないのぉ、ぐらいに思っていた。
それでも、元の正札は『3000円』とあった。
『もう最後だから、1,000円。そしたらコレ付けるよ。コレ。』
『タラバ、片足、7,000円の、コレ付けて、2,000円。』
カニはハズレがあるから、いらないやと思っていても、
『じゃぁ、毛蟹、それともズワイ、』
『カニはイイや』と僕。
すると脇から別のおじさんがやってきて、
『うなぎは?うなぎ。富士吉田、富士吉田産。コレ付けて2,000円。』
身の厚い、結構大きめのものだ。それが、二枚。
近頃、安いのは中国産ばかりなので、うなぎから遠ざかっていた。
心はうなぎを欲しがっている。
こちらが、にやけていると、先方に拍車がかかった。
もはや、敵の術中に嵌まったということだ。
『あと、明太子も付けよう、いや? じゃぁタラコ。』
『いいよ。コレも1,000円で、…』
これまた、ぶっといのが五はらか、六はらも入っている。
タラコが高いことぐらいは知っている。
ということは、これはものすごく安いということだ。
『全部で、3,000円でイイよ。もうマグロがタダってことじゃん。買ってってっ。』
『うなぎ』の正札は、2,000円。
『たらこ』の正札が、2,500円。
『大トロ』が3,000円だったから、しめて7,500円。
それが、なっなんと、なんと、3,000円なのだ。
「本当なのか、なんでなんだ」という想いが頭をよぎる。
まったく、あれよ、あれよという間に袋につめられた海鮮品。
『狐につままれたよう』とはこういうことを言うのか。
そのかなり重い袋を下げて家路につくのに、一番心配だったのは、果たしてこれらの『お買い得品』が我が家の冷蔵庫に納まるのかということだった。
(了)


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