車・ドライブ

2011年6月11日 (土)

『 ドライブ 』 −3−

結局、車が届いてからおよそひと月くらい経って初めてエンジンをかけた。

僕の膝にはステップワゴンの説明書を開いている。
『発進の手順』が不安なのだ。
なぜなら、僕が教習所で乗っていたのがマニュアル車だったから。
しかも最初の最初の発進である。
『宇宙戦艦ヤマト』の地球を旅立つ時並の緊張感である。
僕はどこまでビビリなのか。

『キーを差し』
『ブレーキを踏んで』
『エンジンをかける』
『パーキングブレーキ解除』
『D:ドライブにシフトチェンジ』
『ブレーキからゆっくりと足を離す』

車は静かに動きはじめた。
もちろん『シートベルトは締めて』いる。
『ライト類の点灯確認』は怠ってしまった。

車屋さんが持ってきてくれたから、大丈夫だろうと思っていた。
一か月も経っているのだから、本来なら確認すべきだったかなと思った。

これでいいのか。
車が動いてもなんだか自信がない。


出てすぐ、車の外で見ていたナビ教官が、
『なるだけ右側に寄って、』
と言う。

まずは自分ちを囲む住宅地の狭い路地から脱出しなければならない。
僕は『違う』と思っていた。
ナビ教官の言うことがだ。

今回の教官は知人の『S』さん(女性)である。
最初は素直に従ってしまい、右折して出て行くのに何度も切り返すはめになった。
30分は掛かったのではないか。
典型的な下手っぴぃのハンドルワークである。

が、理由は彼女の指示が間違っていたからに他ならない。
僕は内輪差を考えて、大きく曲がろうとしたのに、右折なのに『なるだけ右』と指示をしたのだから。

十代から車に乗っていて、運転が上手い人だからといって、車の外から教えるのが上手いとは限らないということだ。
まぁ、とにかく山は動いた。

で、しばらく路地の中をぐるぐるまわり、行ったり来たりしながら、車体感覚や運転感覚を確かめた。

『ブゥーン』と滑ってはいる。
左が当たらないか、ブレーキのタイミングは遅くないか、子どもが出てこやしないか、一方通行か、などと正面から横から後から、とにかく注意を払えるだけ払った。

ぐるぐる回っていたら、国道に出るはめになった。
もともと方向音痴なので仕方ない。
でもまだ、交通量の多い国道に出るわけにはいかない。
結局、曲がらずに直進をして難を逃れた。

しかし、今度はみんながお腹が空いたので、コンビニにでも停まって欲しいと言う。
それに、そろそろ休憩をした方が良いと。
だが、そう簡単にはいかない。

『車は急に停まれない。』のだ。

               (つづく)

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2011年6月 8日 (水)

『 ドライブ 』 −2−(画像追加あり)

僕は自分の車なのに、指をくわえて見ているしかなかった。
なんて、大袈裟なもんではないけれど、初乗りにはナビ教官が欲しい。

『車が手に入ったら、すぐにでも乗りたくなるもんですけどね。』
などと仕事場の若い奴に言われたりもした。
生意気にめっ!

しかし、仕事が終わって帰宅後に夜の街に出るだなんて、疲れている上に鳥目の僕には無理だと思った。
もちろん、初乗りだしね。

休日でも、やれ、前の駐車場に工事車両が停まってるとか、やれ、雨が降ってきただとか言って言い訳を作っちゃぁ、『昼ビール』のプルリングを『ぷしっ!』とやってしまう。

これは今後の課題となる。
『昼ビール』は僕にとって、休日の楽しみであり、『休日の証』でもあるからだ。
しかしそれを断ち切らないと、ドライブはできない。
今までは、どこかへ出かけていて、降り注ぐ太陽の下、
『あぁ、気持ちいいなぁ。』
『ぷしっ!』
ってやっていたのだが、それができなくなる。
悲しい。
まぁ、必ずしも車で移動するわけではないからと言い聞かせるしかない。


元に戻ろう。
ナビ教官には何人かの候補がいるのだけれど、彼らの都合と僕のそんな曖昧な気持ちとをあわせようとしているから、なかなかことが進まない。
やはり公道を走らせる不安感があるので、こちらが躊躇しているというのが正直なところだ。

それにしてもなんか『乗らなくてはいけない』ような強迫観念にかられていることが忌々しい。
その一方で早く乗りたい気持ちもないことはない。

二十歳を過ぎてタバコやパチンコをやってイイのと一緒で、免許を持っているのだから、いつだって運転してイイのだという事実。
今まで資格が無いとできなかったことができるようになった僅かな優越感もある。
同級生で運転免許を持っていなかったのは僕くらいなモンだけどね。


僕が運転したいイメージは、俳優の『竹中直人』さんが50歳にして免許を取り、ドライブに興じるようになった話をテレビで見たところにある。

それまで必要なかったんだか嫌いだったんだか、いざ取って乗ってみると、今までにない行動範囲や美しい景色との出会い。
自分の好きな音楽をかけて走ることができる空間、車という道具の素晴しさを語っていたのだ。

僕はまだ素人だった頃から『竹中直人』さんのファンだったので、そんな彼のはなしがとてもイイ感じで、なんだか自分も車を楽しく乗ることができるのではないかと思ったのだった。

               (つづく)

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2011年5月28日 (土)

『 ドライブ 』 −1−

我が家に新車が届いた。
もちろん中古車である。

車屋さんの『M』社長じきじきに納車していただいた。
僕より十(とお)ばかり若い、時より出す甲高い声が特徴的な、商売っ気を感じさせないとても気さくな印象の方だ。

中古車なのに納車いただいたのは、昨年、九月に鮫洲で免許を交付されて以来、僕の手で公道を運転したのが、一回しかなかったから、それを『M』社長が気遣ってくれたのである。
僕の不安を先回りして解消してくれる人なのだ。

ところで、その一回の運転はどこでしたかと言うと、車のことでやはり親身になって教えてくれる仕事場の後輩『ツーさん』の車で運転をした品川埠頭である。

ツーさんの車は『マツダ サバンナRXー7』。
車高の低いスポーツカーである。
マニュアルトランスミッション車、クラッチペダルを踏んで、シフトレバーを捻る奴だ。

品川埠頭は都心の入り乱れた交通がなく、走る、曲がる、停まる、といった技術のみを試せる道とふんで選んでくれたコースだった。

が、実際には大型トレーラーが左右に列をなしていて、『アルプスなんとかルート開通』のような、壁に囲まれた細い道を潜るような感覚だった。
で、その後はツーさんがいろんなところ(お台場ー羽田ー大森)をお手本ドライブをしてくれたけどね。

『この車で運転できれば、オートマなんかチョロいっすよ。』
と、ツーさんは言った。


納車された車は、見事にピッカピカだった。
車は、ホンダ『ステップワゴン スパーダ』のブラックカラーである。

なんだか、ホントに自分がこの車を運転するオーナーなのかは全く実感が湧かなかった。
それにしても、ピッカピカのツッヤツヤで、まるで新車のようだった。
平成17年製だけどね。


そして、三週間が経った。
家の駐車場に飾りぱなっしである。

朝、仕事に出る時に眺め、帰ってきてそこにあることを確認した。
僕の車。

ベランダを屋根に持つ駐車場の車には土埃が積もっていった。
我が家のプランターの土というより、お隣さんの敷地溢れる、植物園化した花木達の土が舞い上がってのもあると思うのだけどね。

何度か、雨も降った。
雨はそれを流し、ピッカピカのブラックカラーは土の線を縦に筋を走らせていた。
少し、悲しい表情になってきた。
僕自身もね。

それでも、いきなりの初乗りを、自分一人で運転するだけの勇気を僕は兼ね備えてはいなかった。
だって、45年以上も車を運転することをさけていたんだから、そんなことできるはずがない。
といっても、僕の車の助手席に補助ブレーキがついている訳でもないんだけどね。

               (つづく)

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